50代になり、「このまま定年まで今の職場で働くのだろう」と、どこかで覚悟のようなものを持っていました。 転職を考えたことも何度もありましたし、社長とぶつかって退職を申し出たこともありました。 それでも結局は続けてきた10年間。 新しい事業が始まるたびに覚えることが増え、必死に食らいつきながら働いてきました。
そんな中で突然告げられたのが、業務縮小に伴う雇用形態の変更。 つまり、減給です。
「ダブルワークをしながら続けるか、きっぱり辞めて就職活動をするか」 そんな選択を迫られました。
そして決定的だったのが、社長の一言。
「お子さん、あと一人進学するだけだから、減給してもお金の心配はいらないでしょ!」
……その瞬間、胸の奥で何かが静かに切れました。 家計の事情を勝手に決めつけられたことも、こちらの気持ちを考えていないことも、すべてが冷たく響きました。
退職の意向を伝えたときには、さらにこう言われました。
「僕が言ったことでちょっと頭にきて意地になってるだけでしょ(笑)」
その言葉を聞いたとき、10年間積み重ねてきたものが一瞬で崩れ落ちるような感覚がありました。 そして、静かに思いました。
「もう、この会社のために頑張りたいとは思えない」
言葉は、人を動かす力にも、人を離れさせる刃にもなる
今回の出来事を通して、私はあらためて“言葉の重さ”を痛感しました。 働く側も、雇う側も、たった一言で気持ちが大きく動く。 その一言が、信頼を築くこともあれば、壊すこともある。
だからこそ、言葉はもっと丁寧に扱われるべきだと思うのです。
ここからは、私が働く中で感じてきた「言葉の使い方」について、強く伝えたいことを書きます。
“見て覚えろ”では伝わらない時代
「見て覚えろ」という言葉は、教える側の都合で使われることが多いと感じます。 説明すれば数分で理解できることを、推測しながら覚えるのは効率が良いとは言えません。
もちろん、観察して学ぶ力も大切ですが、それだけに頼るやり方は今の働き方には合わなくなってきています。 必要なことは、丁寧に伝えること。 そのほうが、教える側も教わる側も、ずっと前に進みやすくなると思うのです。
罵声を浴びせても社員は動かない
怒鳴られたから動くのではなく、怒鳴られたから心が離れていきます。
たとえば、仕事でミスをしたとき。 「なんでこんなこともできないんだ!」 「前にも言ったよな!」 そんな罵声を浴びせられると、社員は“改善点”ではなく“恐怖”しか受け取れません。
その瞬間、
・萎縮してしまう
・次の行動が遅くなる
・報告や相談がしづらくなる
・自信を失う こうした悪循環が生まれます。
罵声は一瞬で信頼を壊し、やる気を奪います。 恐怖で動く組織は、長く続きません。 人は「怒られないために動く」のではなく、「信頼されているから動く」のです。
ほめることは組織を強くする
「ありがとう」「助かったよ」 この一言で、社員の表情も、仕事の質も変わります。
ほめることは甘やかしではありません。 むしろ、組織を強くするための“投資”です。
たとえば、
・小さな改善に気づいた
・忙しい中でフォローしてくれた
・丁寧な対応をしてくれた
そんな場面で、たった一言でも認められると、社員は 「また頑張ろう」 「次はもっと良くしよう」 と自然に力を発揮します。
人は認められると、前向きに動けるものです。 ほめることは、組織の空気を変える最もシンプルで効果的な方法だと思います。
注意するときは簡潔に
注意が長くなるほど、相手は内容ではなく“感情”しか受け取れなくなります。
たとえば、 「この前も同じことがあってね、あのときも言ったよね? それに前の部署でも…」 と過去の話を延々と続けられると、相手は途中から 「結局、何を直せばいいの?」 と混乱してしまいます。
注意するときに大切なのは、 短く、具体的に、改善点だけを伝えること。
・どこが問題だったのか
・どうすれば良くなるのか
・次に期待していること これだけで十分です。
簡潔に伝えることで、相手は素直に受け止めやすくなり、改善も早くなります。
言葉ひとつで、組織は変わる
今回の経験を通して、私は強く思いました。
言葉は未来をつくる。 そして、未来を壊すこともある。
働く側も、雇う側も、言葉ひとつで人の心は動き、離れ、変わっていきます。 だからこそ、言葉を大切にしたい。 その重さを理解する人が増えれば、職場はもっと良くなるはずです。
- 見て覚えろでは伝わらない時代。
- 罵声は人を動かさない。
- ほめることは組織を強くする。
- 注意は短く、具体的に。
どれも当たり前のようでいて、実際の職場ではできていないことが多いと感じます。
だからこそ、 言葉の使い方ひとつで、組織の空気も、人の心も、大きく変わる。 私は今回の経験を通して、その重さを深く知りました。

